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絵を売るお仕事 画廊十年
1999年発行 季刊アゴラ第10号掲載
下の原稿は、私の妻、福山恵美子が1999年6月に画廊を始めて10年めに書いたものです。
私自身「しっかり地道に」という初心を忘れない様、今でも時々この文を読み返しては、心に刻み込んでいます。
お目を通していただければ幸いに存じます。

この地で画廊というものを開いて、おかげさまで十年目を迎えることができました。

 オープンしたのはバブル景気の頃ですが、その後間もなく深刻な不況になりました。厳しい時代を通り抜けながらもここまで来られましたのは、お客様や作家さんをはじめ、多くの方々の応援のおかげであり、心から感謝御礼申し上げます。

 デイスカウントストアやパチンコ店がひしめく相模原で、画廊のような商売を続けることは奇異に映るらしく、よほど金持ちの夫婦が趣味でやっているのだと思われたり、あからさまにそのように言われたことも度々ありましたが、それはみな誤解です。売っているものが絵というだけで、本屋さんや八百屋さんなどと全く変わらない小売業です。

 そして私は、二人の男の子を持つ普通のオバサンです。べつに美大を出たわけでもなければ、自分で絵を描いていたわけでもありません。

 でも今は、それが良かったと思っています。いわゆる目利き画商の目で絵を見るかわりに、普通の人の目で絵を見ることができ、有名画家の高額作品を扱う画商ではない、家庭的な金銭感覚で、作品を扱うことができたからです。

 「絵は高額なもの。だから自分の生活には関係ないもの。展覧会で見るもの。つまり美術の世界と自分の生活は全く別世界。」という固定観念をどうしても壊したかったし、今もその最中です。もっと美術品は、広く開放され、私達の生活に普通に入っていくべきだと思っています。十人十色ですから、いろいろな方が自分探しをするように、自分の心に響くとか馴染む作品に出会えれば良いと思い、作家名といったようないわゆるブランドには全くこだわらずに、様々なタイプの作品を集めて飾っています。

 現実的に、普通の人が買えるような価格設定にも気を配っています。それで、こわごわ店に入ってこられたお客様も、可愛らしいお花の絵や風景画が1万円だったりするのを見て、一様に驚いたりホッとしたりされるのです。

 画廊はこわい所ではありません。普通のお店やさんなのです。


 さて、未曾有の混乱期にあるこの時代に、何の不安も危機感も無く生きている人、疲労を感じない人は稀でしょう。その日その日の生活を勤め上げるのが精一杯で、一日を終えるともうヘトヘト。感謝や喜びに満ちた穏やかな日々を送りたいのに、現実はなかなか厳しく、顔も暗くなりがちです。

 無論、絵を始めとする美術品が、この様な事態を全て解決できるなどとは思ってもいません。ただ、状況を良くする助けにはなると信じています。

 ふと目に入った花の絵に、みずみずしい命の輝きを見出し、暗かった気分が明るく開いていくこともあるでしょう。何気ない静物画の中に、安らぎを取り戻すこともあるでしょう。そういったことは、全て一瞬ででき得ることであり、この辺にこそ、私は、美術品の使命といったものがあるのではないかと思っています。

 なぜなら、人の心の状態というのは、必ずその人の言葉、態度、行動といったものに表れてしまうからなのです。不平不満の心の人は、不和の種をまき散らし、荒ぶる心の人は交通事故をおこしてしまうかもしれません。逆に、明るい心の人は、人を元気づけ勇気づけ、優しい気持ちの人は、親切を厭わないでしょう。

 地球の、人類の危機が叫ばれて久しくなりますが、その真因、遠因は、どうもこういう所にある気がしてなりません。

 美術を始め芸術は、人の心の奥の世界に働きかけていきます。

 明るさ、優しさ、無邪気さ、正しさ等々、魂に最初から吹き込まれている、いわば神様からの贈り物といったようなものが、自然に引き出されていくような絵を皆さんに提供していきたい、そのような絵に出会える心地よい画廊でありたいと努力しています。

 そのような、呼び覚まされた魂の根源的な力が、瀕死の重態にあえぐ地球をわずかずつでも救っていくのではないか、全体から見ればまことにささやかなものなのでしょうが、そんな希望を持って、今日もガラガラと店のシャッターを開けています。

 冒頭に申し上げましたように、フクヤマ画廊は、今年で開廊十周年となります。それを記念して、概ね月に一人ずつ、今までご縁のあった作家さんの個展を開いていますのでお気軽に足をお運びください。絵画と皆様のすてきな出会いがあるかもしれません。

 ありがとうございました。
1999/06/01




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